Speak emo

2019.11.20
加納エミリ

プロデュースする時の私と、ステージで歌っている時の私と、作曲している時の私で違う気がします

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今私がここでオシャレぶっこくと自分の良さがなくなると思うので

 

――で、『GREENPOP』というタイトルなんですが、これはどういう意味なんですか?

 

加納:特にないんですけど…。

 

――特にないですか。

 

加納:とりあえず「POP」っていう言葉を付けたくて、で、「POP」の前に何か言葉を入れたいなと思っていろいろ考えた結果、『GREENPOP』ってふと思いついて…。そのぐらいですかね。深い意味はないですけど、でも結構悩んで考えました。

 

――ニュー・オーダーの「Everything’s Gone Green」って曲を思い浮かべる人もいるかもしれません。

 

加納:あ、そうなんですか? まぁ、そういう風に言われるんだろうなぁ…。

 

――「green」には色々と意味はありますが、「緑の、青々した」とか「瑞々しい、新鮮な」とか「環境にいい」っていうのもあれば…

 

加納:「フレッシュ」っていう意味で「green」と付けたのはあるかもしれないですね。後付けですが(笑)。

 

――「未熟な、経験の浅い」とか「青白い、顔色悪い」みたいなネガティブな意味もあったりします。

 

加納:いろんな解釈をしていただけたらなと思いますね。

 

――で、アルバムには、シングルでリリースした曲やライブのレパートリーになっている曲に加えて、新曲が幾つか収録されています。

 

加納:「恋せよ乙女」「Just a feeling」「Moonlight」が新曲ですね。あと、「恋愛クレーマー」「二人のフィロソフィー」はこのアルバムで初めて音源化されました。

 

――3曲の新曲はこのアルバムのために作ったんですか?

 

加納:「恋せよ乙女」はこのアルバムのために作った曲で、「Just a feeling」は実は提供曲なんですよ。作曲は違う方で。アレンジは私なりにちょっと手直したので、共作って感じなんですけど。

 

――あ、そうなんですね。

 

加納:すごく気に入ってた曲なんですけど、しばらく使われてなかったので「私が歌ってもいいですか?」ってお願いしたんです。

 

――その作曲家ってどなたですか?

 

加納:TOMOHIRO KODAMAさんって方です。男性の方で、私の知り合いの知り合いなんですよ。それほど音楽の仕事がっつりやっているような感じではないみたいなんですが…。その方は以前に女性とで2人組を組んでいたんですが、そのユニットで歌ってた曲なんですよ。それを私がYouTubeか何かで当時観て、「この曲かっこいい」と思ってたんですよね。でもそのユニットは解散しちゃって、しばらくその曲が歌われてなくて、でも私はずっとその曲を覚えてて、アルバムを作ることになってから、「あの曲入れたらいいんじゃないかな」とふと思って、すぐにその方にコンタクトを取って…。

 

――それまでは直接のお知り合いではなかったんですね。

 

加納:会ったこともなかったんですけど、知り合いに頼んでそういう場を設けてもらって…。クレジットや印税のお話もちゃんとして、「いいよ」って快諾いただいたんです。

 

ーー全部自分で作るっていうこだわりはないですか?

 

加納:何人かにそういうことを言われたんですが…。でも関係ないかなぁ。提供曲ばかりだったら私の軸がぶれちゃうかもしれませんが、1曲ぐらいならって感じです。

 

――作詞作曲はもちろん、アレンジも打ち込みもやって歌も歌っている加納さんですが、中でも作曲ってもしかしたら最も核になるものじゃないですか。そこに他人が入ってくるのは嫌なんじゃないかとも思ったんですが、でもそんな感じじゃないんですね?

 

加納:別にいい曲だったら良くない?って感じですね。それに、その曲がこのアルバムに必要だなと思ったので、そういうこと言われても全然知らんぷり。

 

――ちょっと語弊のある言い方かもしれないですけど、加納さんって、オマージュしたり、「ちょっとこういうイメージで作ろう」みたいなこともできなくはないじゃないですか。

 

加納:例えば、昔すごくヒットした曲とか、すごい名曲とかをリスペクトの気持ちでオマージュするんだったらいいと思うんですが、全然知られていない良いものを丸々似せるっていうのは盗作になるので、私はクリエイターとしてできないですね。逆に作曲者からしたら「これ、パクってるやん」って訴訟してもおかしくない。そういうやり方だけはしたくないですね。パクるんじゃなくて、リスペクトの気持ちをもってオマージュしているので。

 

――ちゃんと確立されたもので自分が影響受けたものを、それに敬意を表しながら、自分なりの手法で今の世の中に再構築するっていうのと、誰も知らないアイデアを拝借して自分のものみたいに偽造するっていうのとでは、全然違うということですね。

 

加納:参考にするにしても限度があると思っていて、一部分をちょっと真似してみたとかだったらまだ許せると思うんですが、1曲丸ごととかはさすがに悪意があるし、そういうことを平然とやれちゃう人はクリエイターでもなんでもないと思ってるので、そういうことだけはしたくないですね。

 

――ということは、「Just a feeling」は全体的な完成度があって、それをそのまま使いたいから「じゃあ曲提供してもらおう」ってことになった、と。

 

加納:はい。再利用っていうか、リサイクルというか。

 

――おぉ、「リサイクル」というのはある意味「green」なわけですね。「環境にいい」と。

 

加納:はい。「green」ですね。

 

――で、「恋せよ乙女」と「Moonlight」は新たに作ったわけですね。

 

加納:そうですね。

 

ーーどんどん洗練されてきましたよね。この2曲に関してもそうですし、それは最近のライブを観てもそう思います。前回の取材でおっしゃっていましたが、“ダサい”ものの歪みの部分を“突っ込みどころ”あるいは“引っかかり”として提示して、「ダサいものこそカッコいい」と再定義するのが加納さんの音楽かな、と思ったんですが、洗練されていくということは、ちょっと穿った見方をすれば、そういうところが失われていく、ってことにならないですか?

 

加納:そうですね~。でも、どういうところが洗練したと思ったんですか?

 

――例えば、かなり以前に作られた「恋愛クレーマー」などは、いかにも突っ込みどころを作ってる感があるじゃないですか。「ごめんね」とかもそうですよね。でも、「Moonlight」なんてレトロじゃなくてストレートにカッコいいというか…。「恋する乙女」にしても、レトロではありますが随分と“整って”いる感じがあります。

 

加納:あぁ。

 

ーーご自身としてはいかがですか? 例えば、自分の魅力が失われていくといった恐れなどはないですか?

 

加納:個人的はそうは思わないですけど…。「Moonlight」みたいな割と今ドキっぽい曲もあるはありますけど、やはり基本的にレトロな方が自分の得意なスタイルですし、そちらの音で活動したいなっていう気持ちなので…。急に自分が洗練されたいと思って、私が今ドキの格好をして、カッコいいラップ調の曲とかやってもねぇ…。音はずっとぶれないものを作るってことは自分でも大事にしてますし、でも、難しいですけど、もっとステップアップするにはレベルが上がっていかないと世間には届かないと思うので…。例えば、ライブ・パフォーマンスとか歌唱力とか、あと音質に関しても洗練は必要かなとは思います。でも、急に衣装とかイメージを変えたり、MVとかシティポップみたいな今ドキのやつにしよう、とかは全く思ってなくて。洗練されるべき部分と残しておくべき軸の部分っていうのはしっかりと分けていきたいと思います。

 

――レトロな部分もあれば、そこに新しい音を混ぜるわけですが、「そのバランスが大事」と前回の取材でもおっしゃっていますた。そういった意味でも、レトロなダサいものを打ち出しつつも、そこに洗練された部分も上手くミックスさせないと、それが活きてこない、と。そうした感じなんですかね? そのバランスは時と場合によって変わってくるとは思うんですが。

 

加納:そうですね。ダサい部分は自分の中ですごく大事だなと思っていて、今私がここでオシャレぶっこくと自分の良さがなくなると思うので。自分が売れる可能性ってやはりダサさだと思います。

 

――まあでも、どんなにカッコいいことをしても、加納さんの核にある“歪み”のようなものは変わらないのかなっていう感じはしていて、その強さみたいなものが何をやっても出ていて、やはりモノが違うなと思います。

 

加納:ありがとうございます。

 

 

取材・文
石川真男

加納エミリ ライブ情報


加納エミリ「GREENPOP」レコ発ワンマンライブ(BANDSET)
2019/12/14(土)
青山 月見ル君想フ
開場18:00 開演18:30
前売¥3,000 当日¥3,500 (+1D¥600)
https://t.livepocket.jp/e/greenpop

加納エミリ 商品情報

 

greenpop

11月20日 1stALBUM「GREENPOP」 全国発売

《通常盤》
1.恋せよ乙女 2.ごめんね 3.Next Town 4.ハートブレイク 5.恋愛クレーマー 6.Just a feeling 7.フライデーナイト 8.1988 9.二人のフィロソフィー 10.Moonlight 11.ごめんね(Extended Ver.) ¥2,500+TAX (HYCA-3093)

※初回限定盤[DISC2]
「GREENPOP REMIX」
1.恋せよ乙女 -テンテンコ MIX-
2.ごめんね -TETTOはNEO NEW MUSIC MIX-(吉田哲人)
3.Just a feeling -ミカヅキBIGWAVE MIX-
4.フライデーナイト -佐藤優介 MIX-
5.フライデーナイト -HF International MIX-
¥3,000+TAX (HYCA-9004)


12インチアナログ盤、カセットは12月18日発売
LP: ¥3,000+TAX (NRSP-1270) CT:¥2,500+TAX (NRCT-2501)

レーベル:なりすコンパクト・ディスク
発売元:ハヤブサランディングス
流通:スペースシャワーミュージック

 

 

 

 

 

PROFILE

PROFILE
加納エミリ

1995年生まれ。北海道出身。2018年5月にデビュー。
19歳から楽曲制作を始め、作詞・作曲・編曲などを全て自らで手がける。80年代ニューウェイヴ・テクノ・インディーロックなどをルーツとした楽曲を完全セルフ・プロデュースで制作。2019年1stアルバム「GREENPOP」、2020年アルバムからのカットで12インチ・シングル「恋せよ乙女」をリリース。