Speak emo

2018.12.25
NaNoMoRaL

普段は本音を言えない私の代わりに、パセリさんが作った曲が言ってくれているように思います

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雨宮未來の笑顔がとにかくいい。ステージ上でひまわりのごとく咲き誇るそれは、企みを隠し持ついわゆる“アイドル・スマイル”や“営業スマイル”とは一線を画す、他意の無い自然な、そして混じりっけのない純粋な笑顔であるゆえに、それを受け取る者に様々な情動をもたらすほどに尊く、気高く、力強く、そして優しい。だが、ステージあるいは会場を充たすのは笑顔だけではない。がなり立てながら吐き出される苦悩や、挑発的な言葉の連射がもたらす狂気や、ふいに覗かせる寂しげな表情が醸し出す虚無感や哀愁のようなものもある。それらは、鮮やかなコントラストを描くように巧みに組み合わされ、彩り豊かな模様を織り成す――のではなく、ただひたすら本能のままに吐き出されるのだ。人間誰しもが抱く重層的な感情が作為なく晒け出されるがゆえに、幸せや悲しみや怒りがそれぞれに生々しく発色し、そこにこの上ない説得力が生じるのだ。

そして、雨宮未來がこんな風に感情を吐き出すことができるのも、梶原パセリちゃんの編み上げる高品質なトラックがあってこそだ。小気味良いギター音や歯切れ良いビート、そして煌びやかな電子音が精巧に折り重ねられることで構築された、ニューウェイヴやブリットポップやパワーポップなどを想起させる“洋楽っぽい”サウンド(梶原パセリちゃん曰く「洋楽は全く通ってきていない」とのことだが)。それは、雨宮未來が心置きなく感情を吐き出せる“場”を作り、同時にそれらにえも言われぬ臨場感をもたらしている。

忘れてはいけないのが、梶原パセリちゃん自身のヴォーカルだ。雨宮未來と時に旋律を分け合い、時にハーモニーを重ねる梶原パセリちゃん。曲中では二人で一つの人格が描き出されているが、梶原パセリちゃんは、雨宮未來にとっての助言者のような、共感者のような、警告者のような立ち位置で、彼女とマイクリレーを行う。その声は、聴き手の情動を揺さぶる雨宮未來の歌声がより映えるようにその場を一旦落ち着かせたり、あるいは、彼女の歌声をさらに情感を溢れさせるかのごとく焚き付けたり、という役割を担う。

雨宮未來(ヴォーカル)と梶原パセリちゃん(ヴォーカル、コーラス、マニピュレーター、プロデューサー)から成る、今大注目の男女アイドルユニット、NaNoMoRaL。それぞれアイドル・グループ/バンドでの活動を経て、2017年にエモクルスコップというグループの“メンバー”と“プロデューサー”という立場で出会う。そこから発展し、“雨宮未來のソロユニット”という形で2018年3月9日にデビュー・ライブを敢行。7月にはミニアルバム『nisan ka tanso』をリリース。現在も精力的にライブ活動を行い、アイドルシーンに一石を投じている。

様々な苦難を乗り越え、奇跡の邂逅を果たし、魔法のような音楽を世に問うているNaNoMoRaL。雨宮未來と梶原パセリちゃんのお二人にお話を伺った。

「人を信用しないぞ」みたいなオーラを醸し出していました(未來)

――未來さんは「あヴぁんだんど」と「エモクルスコップ」というグループで活動してたんですよね。

雨宮未來(以下:未來):あ、はい。

――未來さんとパセリさんが出会ったのはエモクルスコップの時ですか?

梶原パセリちゃん(以下:パセリちゃん):はい。そうです。

――パセリさんは当時“運営”だったんですよね? 運営と作詞作曲のみで…。

パセリちゃん:はい。プロデュースも含め、大人がやることを全部やってました。

――お一人で?

パセリちゃん:一人でですね。あとは振付の先生。関わる人はそれだけでした。

――エモクルスコップは、サウンド的には今と通じるものがありますけど、かなり“アイドル”に寄せていた感じですよね。

パセリちゃん:寄せてる…そうですね。

――メンバー4人のダンスや佇まいはアイドルっぽい感じがしましたけど、でも、未來さんは結構シャウトとかしてましたよね?

未來:してました。なので、最初はびっくりされましたね。「やろう」と思ってやったわけじゃなかったんですけどね。テンションが上がって、気持ちが出ちゃったんですよ。デビュー前のレッスンの頃とかはそんな子だと思われてなくて…。っていうか、あまり喋らないような子だったので、ステージ上でそんな「暴れる」みたいな感じになって結構驚かれました。

――あまり喋らない子だったんですか?

未來:そうです。最初は“壁”がありました。パセリさんとも壁があって…。めちゃくちゃありました。「人を信用しないぞ」みたいなオーラを醸し出していました。

パセリちゃん:「大人とは一線置いてます」みたいな雰囲気はすごくありました。

――ある意味「扱いにくそうな子」だったんですか?

パセリちゃん:いや~、でも、それぐらいの子の方が、わかりやすくて良いですね。どっちかって言うと、アイドルの子って運営に対しても“アイドル”で来るんで。それはもう意図が分かっちゃうじゃないですか。未來さんはそういう子じゃないだろうし…。だからこういうぐらいの方が扱いやすいです。

――「気に入られよう」「いい扱いをしてもらおう」と思って、ある種“媚びてる”みたいなアイドルもいる中で…

パセリちゃん:そう。そんなのは別にいいんで。それがなかったからありがたかったです。

未來:よかったぁ!

――では、エモクルで出会って、そこから発展したのがNaNoMoRaLということですよね。それが今年、2018年3月9日からですよね?

未來、パセリちゃん:はい。

――で、3月9日のお披露目ライブ「ナノモラルハジマル」。でもその時って「雨宮未來のソロプロジェクト」といった打ち出し方でしたよね?

パセリちゃん:そうです。一応今もそうなんですけどね。

――でも、もうほとんど二人組みたいになってませんか?

未來:ややこしいって言われます(笑)。

パセリちゃん:いや、これもいろいろあって…。そもそも“アイドル”っていうジャンルでやりたいと思っていたので、「僕がいるのはおかしいだろ」と思うんですけど、「一人でステージに立たせるのはいろいろと難しいんじゃないかな」とも思い…。それは「未來さんだから」っていうわけじゃなくて、なんというか一人じゃ映えない部分もあるだろうし。なので“ソロユニット”って謎の言葉になるんですけど。一応「“雨宮未來のソロ”だけど、ステージには一人で立ってるわけじゃない」っていうような状態を作りたかったんですよ。だから2人組ってより1.5人組みたいな感じです。

――でも、そのお披露目ライブの時に「思ったよりパセリさんが出過ぎてる」って未來さんがおっしゃってましたよね?(笑)

未來:「結構前出るな」って思いました(笑)。

パセリちゃん:いや、僕もホントに黙って後ろで「いろいろやってよう」と思ってたんですけど。

未來:お客さんの反応が温かかったんですよね。

パセリちゃん:そう。お披露目ライブは自分たちの主催だったので、いわばホーム状態じゃないですか。で、お客さんの反応がすごく良かったんですよ。僕もまあ、得体の知れない人間ではなくて、前のグループのプロデューサーでもあるので、そういう意味ではすごい温かく迎え入れてくれて…ってなったら、じゃあ「煽られたら出るしかないじゃん」って。それが今もずっと続いてるって感じです(笑)。

――あの時はでもギターを弾かれてましたよね。

パセリちゃん:そうです。何もやることがないからギターでも弾いてようと思ってたんですけど「やること結構あんじゃねえか」と思って(笑)。煽られるし。だから、ギターは1曲目のイントロしか弾いてないです。

――そうですか。僕はダイジェスト映像を観ただけなんですけど、ギターは最初だけだったんですね。

パセリちゃん:そう。すぐに置きました。

――なんか途中で前に出てきて何かやられてましたよね?

パセリちゃん:何かやってますね。

――お客さんにマイク向けたり。

パセリちゃん:そういうつもりは全く無かったっていうか、そういう状態になると思わなかったですね。

――じゃあ、今も一応“ソロユニット”という形なんですね。

パセリちゃん:もう何でもいいような気がしてきましたね、最近は。

――当時はコンセプトみたいなものって、何かあったんすか?

パセリちゃん:まあ、“ソロユニット”っていうことと、後は、ちょっと闇の部分もあった方が良いなとか、そういうことは考えていたんですけど、「これはこうじゃないといけない」みたいなコンセプトは別にないですね。

未來:すごい自由にステージングをさせてもらってます。「ここでこうしろ」とかないので。

パセリちゃん:二人ともない。

未來:勝手にやらせてもらってます。

――ネット上で「アイドル界にちょっと違和感」みたいなコンセプトを見つけたんですが…。

パセリちゃん:あ、それはありますね。

――それは今でも生きてるあれですか?

パセリちゃん:そうですね。だって僕がいるのおかしいじゃないですか(笑)。

未來:ずっと違和感(笑)。

パセリちゃん:「アイドルとしてやっていきたい」とはずっと思っているんですが、今ってアイドルもすごい多様化してるじゃないですか。音楽ジャンルという意味でも。その中でも、ちょっと異端のような存在になると思うんですよ。男女2人というメンバー構成も。そういうところは“違和感”かなと。あとセッティングをしなきゃいけないんで。

――機材を持ち込まないといけないんですよね。でも、NaNoMoRaLのサウンドを聴いたり、メンバー構成を見たり、ステージを観たりすると、人によっては「アイドルなのかどうなのか」みたいな疑問って出てくると思うんですけど、あくまで「アイドル」と主張するわけですね。

パセリちゃん:はい。もう「アイドル」って言い張ってます。

――それは何か理由がありますか?

パセリちゃん:う~ん。出演するライブがアイドル系ライブというのもありますし…。でも「アーティスト寄りだね」みたいなことを言われることは多いんですよ。それもちょっと気に入らなくて…。僕は「アイドルは素晴らしい」と思ってこの仕事を始めたので、「アーティスト」って言われるとマイナスに聞こえちゃうんですよね。そんな風に言われると「うるせー」って思っちゃうんですよ。だから「いやアイドルです」ってちょっと意地になってるところはあると思います。

――なるほど。今アイドル界ってほんとに混沌としてて、「名乗ったもんがアイドル」みたいなところがあって。出自がアイドルな人ほど変わったこと、振り切ったことやろうとをしている一方で、アイドル外から来た人が嬉々としてアイドルをやってるみたいなケースもあったり。フィロソフィーのダンスなんて、バンドやってた人やシンガーソングライターといった“アイドル外”の人たちがある意味アイドルを演じていて、それが面白かったり…。

パセリちゃん:そう。だから(フィロソフィーのダンスのプロデューサー)加茂さんの考えはすごいわかります。インタビューもいろいろ読ませていただいたんですけど、加茂さんの考えに共感できるところが多いと思います。

――では、未來さんはどうなんですか? アイドルがやりたいですか?

未來:そうですね。私は「アーティストになりたい」と思ってたんですよ。そうですね…3年ぐらい前までは。でも、今はアイドルっていいなって。アイドルは寿命が短いものでアーティストは長く続けられるという風に思っていたから昔はアーティストになりたいって言ってたけど、NaNoMoRaLを始めたらそんなことを考えることもなくなってアイドルでも全然長く続けられるじゃんって思うようになったっていうか。分かりますか?何て言えばいいんだろう…。

――あぁ、はい。

パセリちゃん:そっちの方が都合がいい。

未來:都合がいいっていうか…。何歳になっても「アイドル」って言ってたら若い気持ちでいられるし、何でも許される感じがするので…(笑)。

――あぁ、はい。「何でもあり」という感覚はありますよね。好き勝手やっている人たちもいます(笑)。

未來:確かに。はい(笑)。

――“掟なし”という感じですよね。例えば、バンドだとしたら、各メンバーが発想する範疇の中でしか出来ないですし、それも何か縛られていて柔軟性がない印象なんですが、アイドルと名乗ることで「自由な発想で何でも出来る」みたいな感覚はありますよね。

未來:あと、アーティストだと“一本柱が立つ”感じがするんですよ。でも、アイドルだったらヘラヘラしてても平気っていうか(笑)、“素の自分”でも認めてもらえる感じがありますよね。

取材・文
石川真男

NaNoMoRaL ライブ情報

NaNoMoRaL

NaNoMoRaL presents
『 siranai party vol.01 』

■日程:2019年01月13日(日)
■時間:OPEN17:30 / START18:00(予定)
■会場:渋谷DESEO mini with VILLAGE VANGUARD
※東京都渋谷区道玄坂2-13-5 ハーベストビルディング2F
■料金:前売り 2500円 / 当日 3000円 ※別途1D
■出演:NaNoMoRaL / ジョニー大蔵大臣(水中、それは苦しい) / MELLOW GREEN WONDER / SAKA-SAMA / 電影と少年CQ

NaNoMoRaL 商品情報

ミニアルバム『nisan ka tanso』発売中!

nisan ka tanso

1800円(税込)

<収録曲>
呼吸のすすめ
ハジマル
人間やるのやめた
モノクロマジック
シンダフリズム
もんすた
サーチライト

 

PROFILE

PROFILE
NaNoMoRaL

2018年03月に雨宮未來のソロユニットとして結成、ライブデビュー。ソロなのにユニットという特殊な編成で雨宮と梶原の男女Vocalがアイドル業界内で異彩を放っており、活動当初はアイドルイベントへの出演がほとんどであったが、現在ではバンドライブへの出演も多く、ライブデビューから2年で約300本のライブを行った。2019年10月には京都の音楽フェス『ボロフェスタ2019』に出演。その勢いのまま同年11月に渋谷WWWにてワンマンライブを開催。
2020年08月には浅草花やしき花劇場、12月には恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブを開催予定。

 

雨宮未來
twitter @amamiya_miku

梶原パセリちゃん
twitter @K_PaseliChan

公式サイト: https://www.nanomoral.com/

公式Twitter: https://twitter.com/NaNoMoRaL_info