今年オープンした渋谷ストリームホールにて、高井つき奈ひきいる「simpatix」（シンパティクシュ）主催お披露目イベントがおこなわれた。クラウドファンディング「CAMPFIRE」で支援を募り開催されたこのイベントは、いわゆる楽曲派といわれる通好みなゲストたちも花を添えるかたちで出演。純粋に楽曲をたしなみたいファンにとってはたまらないライブとなった。

最後に残った「希望」という名の現場。それがsimpatixなのかもしれない……

2部制でおこなわれたこのライブ。ゲストの顔ぶれは、1部のゲストにヤなことそっとミュート、フィロソフィーのダンス、絵恋ちゃん、寺嶋由芙。2部のゲストは1部に続き寺嶋由芙と、そしてtip toe。乱暴な言い方をすれば、いわゆる王道系とはずれたおしゃれ界隈のラインナップ。まず1曲目に披露したのは、2部では披露しなかった『あなたの好きな人はだれ？』。おしゃかわソングの名作家ヤマモトショウ（ex.ふぇのたす）。中毒性が極めて高い楽曲だ。続けて、『安心』を披露。可愛いらしいポップチューン。

メンバーはプロデューサー兼メンバーの高井つき奈（たかいつきな）、柚餅子みこ（ゆべしみこ）、可恩（かのん）。アイドルファンの間では周知だが、高井つき奈といえば、いわずもがな、元ももいろクローバーで元SKE48。2大ユニットを渡り歩いた希有な存在だ。こういう紹介の仕方はもう散々されてきただろうが、それだけファンの間では一目置かれた存在だった。だが、いずれも在籍期間が短かったため、こうして間近に観られるというのはなんだか感慨深いものがある。それもメンバー兼任のプロデューサーというかたちとして。運営のいない、セルフプロデュースというスタイルは、ファンからしたらそれだけで好感がもてるのだ。並大抵の努力ではグループを率いることはできない。それに高井の言葉の端々から人の良さが垣間見られた。実をいうと、筆者も当時の彼女を実際に観たことはない。それでも、MCを通じて、それは伝わった。

寺嶋由芙とのトークコーナーの間、自他ともに認めるアイドルヲタクだという高井に対し、寺嶋は、いつも自分の現場で見る彼女が今度は同じステージで「ちゃんとアイドル」しているのを目の当たりにし、あらためて高井のアイドルとしてのオーラに驚愕したという。普通なら、ここまでポテンシャルの高すぎる女性ファンが現場にいたら、演者はやりにくい。高井と寺嶋は同じアイドル好きという共通点もそうだが、それ以上にお互いが共鳴し合っているようだった。

そこは、アイドルが好きな人、なりたい人がアイドルを好きでい続けられる場所

寺嶋由芙と高井つき奈のトークコーナーでも2人が口にしていたように、「最近のアイドル界では悪いニュースが多い」。それは事実だが、出入りの激しい業界なのは、ある意味では仕方がない。だからこそ、高井つき奈は「真面目にアイドルを目指す」のだという。そこは、まさに寺嶋のキャッチフレーズでもある「～まじめなアイドル、まじめにアイドル」と共通するのだ。志半ばで終わらせない、そんな気概を2人からは感じた。彼女たちが語るこの真面目にアイドルをするということについて、楽屋でも2人で話し合ったのだという。まるでアイドルヲタクたちが、イベント後に居酒屋で集まって議論するかのような熱苦しさだ。しかし、ひとつ確かなことは、彼女たちはファンを裏切らないということ。だから、「真面目なアイドルになる」は、ほかのアイドルたちならばつい及び腰になりそうな、そんな決意表明ともとれる。だとすれば、筆者的にはその時点で推せる。それに、今後もまた別のかたちで2人のコラボを見たい。

simpatixの3人はというと、パフォーマンス前の自己紹介の時点でも、すでに真面目なコメントを残し、人の良さ100点満点を印象づけた。デビューにして、はやくもアイドルのお手本のような振る舞いである。ファンへの感謝、気遣い、そして、柚餅子みこは思わず涙しかける場面にもぐっとくるものがあった。いろんなアイドルがいるのはよいことだが、最近のアイドルは、とにかく活動の寿命が短い、とだれもが感じていることだろう。ファンに夢を見させる前にいなくなってしまう。それはアイドルの本来あるべき姿ではない。simpatixこそは信じられる、正しい道を歩もうとしている。そう感じさせられた。夢を見させてくれるってそういうことだ。それがアイドルなのだ。

simpatixのファンが、「推しててよかった」「アイドル追っかけててよかった」と思える、そんな瞬間がこれからどれだけ見られるのだろう。今はなきかつての推しメンたちが脳裏をよぎりながら、ふと、そんなことを思った。

【PROFILE】

元ももいろクローバー、元SKE48メンバーでプロデューサー兼メンバーの高井つき奈（たかいつきな）、千代田区外神田のアイドルのスタッフが在籍するカレー屋「秋葉原カリガリ」発の元ソロアイドル・柚餅子みこ（ゆべしみこ）、すでに解散した「一夫多妻制ユニット」清竜人25元メンバーの可恩（かのん）。ユニット名の由来は、ハンガリー語の「SZIMPATIKUS」（恋愛感情を抜きとした直観的ひとめぼれ）。楽曲派ふぇのたすのヤマモトショウ、アレンジはフィロソフィーのダンスなどの楽曲を手がける宮野弦士。

Twitter　@simpatix_

HP　 https://simpatix.amebaownd.com/

【information】

11/2(土)
『っょかわフェス！』
上野恩賜公園 野外ステージ

11/3(日)
『秋のYOIMACHI』
大塚deepa

11/16(土)
『白幡いちほBIRTHDAYLIVE 2部』
clubasia

【セットリスト】

01.寺嶋由芙&高井つき奈トーク

02.『あなたの好きな人はだれ？』

03.『安心』

取材・文◎名原広雄　写真◎井戸隆明