FEATURE

2019.11.03
終わらないで、夜

終わらないで、夜 1周年記念 2ndワンマン -2nd one-man live- 「destination」 @ 渋谷RUIDO K2

「終わらないで、夜」とはいかなるユニットなのか。彼女たちの魅力はライブパフォーマンスだけにとどまらない。本記事では、曲紹介ではお伝えしにくい、「おわよる」の魅力について迫っていきたい。誰しも心に夜を持っている。一度彼女たちのライブを観たのなら、そのときすでに終わらないで、夜という術中にはまっているのだ。

終わらないで、夜

「同じ気持ちの人を救いたい」舞台上で起こるすべてがリアルなメッセージ

 

10月27日18時25分。まだ開場前だというのに、ライブハウスを長蛇の列が取り囲む。インディーズアイドルのワンマンライブでは久しぶりに見る光景だ。会場は渋谷RUIDO K2。場内は瞬く間に満員となった。客層の男女比はおよそ3分の1が女性客というめずらしい現場。はたしてこれが何を意味するのだろう。

「夜が好きな人は人が嫌い。」をキャッチフレーズに活動を開始した終わらないで、夜。は、当初、祈園にっと(ねおんにっと)、木菟あうる(みみずくあうる)、天満月さあや(あまみづきさあや)の3名でスタートした。そして、後に加入することになる真宵えま(まよいえま)と鈴星るう(すずほしるう)。真宵はもともと初期の3名だった頃のファンだったという。天満月いわく、この5人は、単にオーディションで集まったアイドルではない。「5人全員がそれぞれ運命的に出会った」。たしかに、目には見えないが、はっきりとわかる戦友ともいえる強い絆。それは、彼女たちそれぞれが語るように、それぞれの夜を持っている。昼のような明るさはないが明かりが灯れば輝く、そんな夜。そしてそれに共鳴して集まったファンたちとをつなぐ大切な想い出。そういったところも女性ファンが共感するのかもしれない。

SEが流れるなか、袖から入ってくる5人。衣装のカラーは、赤。そして、ストラップ付きのパンプスも統一。衣装のデザインはそれぞれ異なる。そして、板につくと、全員脚をのばして座り込む。すでに演出がはじまっているのだ。

1曲目の『3:25 a.m.』。イントロから「エモ」いアッパーチューン。振付も激しくかっこいい。木菟の言う「おわよるといえば、夜、 決して明るくはない歌詞、ピアノ」のとおり、彼女たちがステージに立ったその時から"夜"に染まる、それ以上に楽曲のよさ、プロジェクターと照明、それら演出とメンバーの振りの躍動感がまたダイナミックで、ひとつのストーリーができあがっている。つい引き込まれる。ミュージカル、舞台を観覧しているような完成度の高さ。この日にかけた意気込みを感じるし、演技の部分、台詞の部分すべてに意味があるように思えた。アイドルライブにありがちなコールやミックスは聴かれない。

キャッチフレーズの「夜が好きな人は人が嫌い。」。このフレーズには、たくさんの意味が込められているように思う。ただの風景描写に止まらず、ただのメッセージに止まらず、たくさんの意味と想いが込められている。それは、今ステージに立っている彼女たちから発せられる歌、ダンス、全ての表現から伝わってくる。それこそが彼女たちが伝えたいものだろう、だがそれには答えがないように思える、ライブで受け止めた人だけにおわよるが伝えるメッセージの答えがあるのだろう。

途中のMCで祈園が語った話が印象的だった。ビラ配りをして、待ちゆく人に声をかけ、それでも、「とどけたくてもなかなかとどかない」。だがしかし、メッセージをとどけるために、何も歌だけである必要はない。表現はさまざまだ。それでも、彼女たちはあえて未知のパフォーマンスを選んだのだ。これまでの自分たちにはおよそ考えられない手段を。そして続けてこう言う。「私たちの音楽って人を救うことができるんだ」「たくさんの人を救える居場所になるんだ」と。

 

終わらないで、夜

 

表現する夜は心の「闇」微かに差し込む光は「希望」

 

おわよるのステージの特徴は、1曲1曲が舞台演出のように光と闇を操って表現していること。歌詞だけでなく、視覚的にもコントラストが強い。フォトグラファー泣かせではあるが、彼女たちの舞台は、やや大げさな言い方かもしれないが総合芸術なのだ。夜の風景を表現するような照明、歌詞のメッセージ性、緩急つけた難解な振りに一人ひとりの優れた歌唱力。これこそが見どころ。演技じみていると思えば、感極まって涙を流す。まるで演劇、いや、ドキュメンタリーを観ているようだ。

楽曲を手がけるのは、ライブ後の「打ち上げトークショー」のコーナーにも出演した、西川貴教らのアレンジを手がけるKOUICHI氏、そしてバンド・New Side ChapterのボーカリストであるNiel氏。振付はダンサーやDJなどアーティストとしても活動するNachu氏。また、メンバー自らも歌詞や振付を担当することもある。

アコースティックライブのコーナーでは、2曲を披露。まず登場したのは天満月、真宵、鈴星。抜群の歌唱力を武器に鳥肌が立つほどの世界観をつくり出す。続いて祈園と木菟がアコースティックで『(Sick)Homesick』を歌い上げる。「居場所のない人のための曲」。聴かせる曲だ。

アコースティックのコーナー後、木菟が観客に向け思いのうちを語り出す。自分たちをこれまで支え、今日この場所に集まってくれたファンに向けた感謝の言葉。「きりがないんですよ。あふれるくらいのみなさんへの感謝を込めてこの2曲、生演奏で、特別な夜としておとどけしました」。1年分は聞いたのではなかろうかというくらいの「ありがとう」。これほどまでに一言ひとこと気持ちのこもった「ありがとう」を初めて聞いた。

メンバーのうち、天満月のみが15歳の頃からダンスを続ける経験者。だが、そんな彼女も例外なく生きづらさを経験してきた。活動を一時休止していた彼女。天満月がいない間、2人でステージをおわよるという場所を守り続けていた祈園、木菟。この場所に憧れていた真宵、そしてステージ経験のない中飛び込んできた鈴星。この場所が自分たちの居場所なんだと、彼女たちは言う。

 

天満月が言う。「もし私たちが恵まれている環境で育っていたら、きっとこうはなっていない」。筆者はそれを聞いて、なんだかうらやましくも思った。この5人は出会うべくして出会ったのだろう。そして、通常のアイドルライブとはまったく異なる充実感があった。その空間はある種のドキュメンタリーであって、とてもよいものが観られたという感覚だった。今までにないアイドルの姿を見た。人は、これほどまでに心の闇を前向きなメッセージに変えられるものなのか。祈園の「私たちの音楽って人を救うことができるんだ」。この言葉には重みがある。だが同時に、このライブには希望の光も差し込んでいる。明けない夜もまた、ないように。

 

【PROFILE】

終わらないで、夜

「夜が好きな人は人が嫌い。」がキャッチフレーズ。エモーショナル夜型アイドル。都会の喧騒の中で抱える虚無感や葛藤、故郷へのノスタルジックな想い等、夜が明けるまでの様々な風景描写をメッセージとして表現する。ワンマンライブではプロジェクターなどを使った光と闇の演出が見どころ。また、惹きつける歌唱力と躍動感あるダンスも特徴のひとつ。メンバーは祈園にっと、木菟あうる、天満月さあや、鈴星るう、真宵えまの5名。

 

<twitter>

公式:https://twitter.com/owaranaide_yoru

祈園にっと:https://twitter.com/owa_nitto

木菟あうる:https://twitter.com/owa_owl

天満月さあや:https://twitter.com/owa_saaya

鈴星るう:https://twitter.com/owa_Lou

真宵えま:https://twitter.com/owa_emma

 

【セットリスト】
00.Sink;(SE)
01.3:25 a.m.
02.ルサンチマン
03.(Sick)Homesick
04.Anemone
05.人のおちる街
06.Beyond the Night Sky(アコスティック ver)
07.(Sick)Homesick(アコスティック ver)
08.干渉遮断のモラトリアム(SE)
09.Nocturne:Halation
10.Echoes
11.一瞬の光
12.Beyond the Night Sky

 

 

取材・文◎名原広雄 写真◎山上徳幸

特集FEATURE

FEATURE
最新記事更新日 2024.04.22
ガルポ!ズ LIVE レポ
最新記事更新日 2024.04.21
ガルポ!ズ INTERVIEW