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2025.09.01
渋谷るり

「歌う藁人形」という言葉が、わたし自身の表現したい音楽性を的確に捉えているなと感じたことで、渋谷るりを示すキャッチコピーとしても使うようになりました。渋谷るり インタビュー。

 「歌う藁人形」の異名を持つ、シンガソングライター画家の渋谷るり。彼女が、人生初となるCD『ヒロイニズム宣言』をリリース。画家として活動をしながら、コロナ禍より音楽活動もスタート。彼女が描くのは、情念を歌うネオ歌謡曲のような世界観。渋谷るりの心の内を、ここに晒したい。


呪い(のろい)という言葉自体、お呪い(おまじない)とも読めるように、藁人形も、わたしの表現している歌も、結局は、聴いた人がどう受け止めて解釈していくかが大事なこと。


──画家として活動。何故、歌の世界へも魅力を感じたのか、そのきっかけや理由から教えてください。

渋谷るり 音楽も好きで聴いていましたけど。絵を描くのはもちろん、もともと詩を書くのも好きで、よく書いていました。だけど詩って、世の中にはなかなか広がりにくいというか、極端な話、自分の中で完結してしまうことも多いじゃないですか。そんな中、たまたまコロナ禍の時期に、自分の書いた詩を読みながら、「これにメロディーをつけたら曲になるんじゃないか」と思い立ち、それで詩にメロディーや演奏をつけたのが、音楽を通した創作活動を始めたきっかけでした。

──みずから描く絵も、詩も、ご自身を題材にすることは多いのでしょうか。

渋谷るり よく「絵は自画像ですか?」と聞かれますが、あくまでもわたし自身の要素は5%程度で、見ている人自身の絵でもあります。皆さんが絵の世界に入り込み、ご自身で解釈していけるようにと描いています。それは、詩についても同じです。

──絵を通した思いの伝え方も、もちろん大切だと思っています。でも、音楽を通したことで、より感情をダイレクトに伝えられていません??

渋谷るり  それは感じています。わたしは何度も個展を開催してきましたけど。あくまでも画廊に足を運んだ人たちに、絵を見てどう感じてもらえるかが主になっています。絵というのは、物理的に外へ持ち出して何かをやるのは難しいんですね。だけど音楽なら、わたし自身が外に出ていくことで、いろんな人たちに能動的に思いを伝えていける。つまり、みずから動くことで思いを発信していけるところに、絵と音楽の伝え方の違いを実感しています。

──音楽活動を…それこそライブ活動を始めたことで、創作をした自身の思いの伝わり方は変わっていきました?

渋谷るり もちろん絵を通して表現していたときも、画廊で個展を開催することで、いろんな方々に思いを伝えてきましたけど。音楽という手段を使い始めたときに、普段なら画廊に足を運ぶことのない方々にもわたしの思いを伝えられたという面で、面白い伝え方の手段だなと感じました。

──るりさんには「歌う藁人形」というキャッチコピーが付いています。その言葉のインパクトもさることながら、るりさんが作り出す音楽の魅力や、歌い手としての姿や思いを的確に表現する言葉だとも感じました。

渋谷るり この言葉は、わたしがライブ配信をしているときに、ファンの方がキャッチコピー的な感じでコメント欄に書いてくださいました。その言葉が、わたし自身の表現したい音楽性を的確に捉えているなと感じたことで、渋谷るりを示すキャッチコピーとしても使うようになりました。自分でもその言葉にしっくりきたからこそ、耳や目にした人たちも忘れないワードになって、自然とこの言葉も広がりだしたんだと思います。

──るりさんが音楽を通して描き出す世界観って、「見せ物小屋の中の歌謡ショー」「江戸川乱歩の描き出す幻想と怪奇の世界」のような、異端で異形な雰囲気にも満ちていますよね。

渋谷るり  わたし自身、アングラな世界観が好きだから、その表現は嬉しいです。それこそ「藁人形」という印象だけで捉えると、人を呪う道具のような怖い存在として受け止められがちですけど。藁人形は身代わりになれば、お守りにもなるように、その人にとってプラスになる存在でもあるわけです。呪い(のろい)という言葉自体、お呪い(おまじない)とも読めるように、藁人形も、わたしの表現している歌も、結局は、聴いた人がどう受け止めて解釈していくかが大事。そういう思いも含めて「歌う藁人形」という言葉を使っています。

──なるほどー。るりさんの歌には、CDに収録した『毒蛇 ー道成寺ー』のように、女性が心の中に抱え持つ"情念"や“怨念”のような思いを歌にしていくことも多いですよね。

渋谷るり  『毒蛇 ー道成寺ー』は、安珍・清姫の悲恋物語をベースにした楽曲。もちろん、継承された物語ですからわたし自身の経験ではないですけど。「安珍・清姫伝説」として語り継がれている物語の中、清姫がお坊さんの安珍に恋をしますが、結局は見捨てられてしまう。でも清姫は、あきらめきれずに安珍を追いかけ、終いには大蛇となって安珍を焼き殺してしまう。清姫の「好きだ」という執着した思いが、結果的には悲劇を生み出すほどの思いへ変わっていったわけですが、この物語を読んだとき、それくらい「好き」という思いを抱いた清姫の気持ちがわかるなぁと思って、この歌を書きました。


ちょっと視点を変えて表現したいなと思い、「まだお花畑でいるのかな」と連呼をする、この曲を生み出しました。


──1stEP『ヒロイニズム宣言』に収録した4曲を選んだ、その理由も教えてください。

渋谷るり  このCDを作るきっかけになったのが、1年ほど前にプロデューサーのTHOGOさんと出会ったことでした。その頃から、「CDを作ろう」という話が持ち上がり、「この曲がいいんじゃないか」など、いろんなアドバイスをいただきつつ、じっくりと時間をかけたうえで、8月13日のリリースに漕ぎ着けました。収録した曲たちは、活動初期から歌ってきた曲から最近生まれた曲、間々田優さんからの提供曲と様々ですが、どの曲にも自分らしさは出ています。
https://www.youtube.com/watch?v=XuHu_unamvk

──間々田優さんは、『ヒロイニズム宣言』を提供しています。るりさん自身、自分で創作した曲以外を歌う経験は?

渋谷るり  作家さんを含め、他のアーティストの方に楽曲を提供していただき、その曲を歌うのは今回が初めてでした。わたし自身、とても新鮮な経験になりました。

──『ヒロイニズム宣言』の歌詞は、みずから書く詩の世界観とは異なる視点で記されていますよね。

渋谷るり  そうですけど。間々田さんが普段のわたしを見たうえで書いてくださった歌詞だから、自分でも歌いながら「わたしっぽさが出ているなぁ」と感じていましたし、「他の人から見た渋谷るりってこういう姿なんだ」とわかり、なんか新鮮に見えて楽しかったです。

──冒頭を飾った『グラジオラス』は、現代日本人の頭の中の意識を皮肉った歌になっていますよね。

渋谷るり  「脳内お花畑」という言葉を使うことってよくあるじゃないですか。自分も「そうじゃない」とは言い切れないし、日本は平和ボケしてしまうくらいの国だから、世の中の人たちの頭の中がそうなってしまうのもわかるんですけど。日本が、そして世界中が、より良い空間になるように願いますが、ただ「戦争反対」と歌っても、そんなことは誰もが当たり前にわかっていることじゃないですか。だからちょっと視点を変えて表現したいなと思い、今を生きる人達へ向けて「まだお花畑でいるのかな」と連呼する歌にして(皮肉る形で)生み出しました。

──世の中へ向けてシニカルにメッセージを発する楽曲は、るりさん自身が好んで求めている表現じゃないですか?

渋谷るり  1stEP『ヒロイニズム宣言』に収録した4曲とも、すべて異なるテーマで書き上げています。『毒蛇 ー道成寺ー』は、日本古来の女性の持つ心模様や精神性を歌にしていれば、『パラレルワールド・ベイビーズ』では、わたしなりの宇宙観をテーマに書きました。『パラレルワールド・ベイビーズ』は、わたしが音楽活動を始めて間もない頃に書いた曲。いろいろと思い悩んでいた当時の心境も、この楽曲には投影されています。
──『パラレルワールド・ベイビーズ』では、「あの時○○していたら」と、いろんなたとえ話も歌詞に記しました。

渋谷るり  もし、わたしが音楽活動という選択をしていなかったら、今の姿はなかったかも知れない。音楽という道も選んだとしても、その時期がもっと遅かったら今とは異なる状態や状況になっていたかも知れない。そう考えたら、「人生って不思議だなぁ」としみじみと感じて、そのような思いを言葉にしています。

──今回は音楽家として取材をしていますけど、今も絵を描くことは続けていますよね。

渋谷るり  もちろんです。ただ、音楽活動も平行をしているから前よりもペースは落ちていますけど、今も描き続けています。個人的には、表現の間口を広げたことはすごく良かったなとも感じています。

──るりさん、ライブ活動にも楽しさを覚えています?

渋谷るり 絵の場合、個展を開催するギリギリまで準備をしながらも、いざ個展を始めたら、わたし自身は反応を受け止めるだけになります。ライブ活動は、本番を通して自分を発揮していくから、今も緊張を感じながら挑んでいます。反応という面でも、絵の場合、感じた思いを語ってくださる方もいますけど。その人が心の中でどう受け止め、どう感じたかがすべてになります。ライブ活動をしていると、個展のとき以上に、直接感想の言葉をいただく機会は多いなとも感じています。


怒りや恨みつらみなど負の感情を、わたしは藁人形にではなく楽曲にして吐き出していく。結果、それが本当に納得のいく楽曲になると、恨んでいた人にさえ感謝を覚えます。


──るりさん、女性が心の内に秘めたどろどろとした感情を言葉にして記すことが多くないですか?

渋谷るり わたしが好んで描く題材の一つですけど。昭和の時代や、それ以前の頃の女性は、現代の女性には無い思いをみなさん持っていました。『毒蛇 ー道成寺ー』のモチーフになった「安珍・清姫伝説」に登場する清姫は、好きの気持ちが強すぎるあまり、みずから大蛇になって好きな人に火を吹いて焼き殺してしまう。今回の1stEPには収録していませんが、「昔の女たち」シリーズとして歌にした、好きな人にもう一度会いたいがために放火をし、犯罪者になり、処刑されてしまう「八百屋お七」のように、そこまで感情を振りきってしまう姿が格好いいなというか、わたしは尊敬の眼差しでその思いを受け止めたし、それを楽曲にもしていきました。

──昔の女性は、今のように自由に心を解き放てる環境ではなく、いろんな我慢を強いられていました。だからこそ、一度タガが外れたら、常軌を逸した行動に出てしまうというか、気持ちを抑えきれなくなってしまうんでしょうね。

渋谷るり 八百屋お七だって、たとえ会いたい気持ちが募ろうと、火を放ったらどうなるのかは冷静に考えたらわかること。だけど、その気持ちをすっ飛ばして火をつけちゃうところにわたしは共感を覚えたからこそ、『毒蛇 ー道成寺ー』も含め、こうやって歌にしたんだと思います。

──るりさんの中にも、そういう衝動があるのでしょうか。

渋谷るり もしそういう状態へ陥ったとしても、わたしの場合、一線を超えたら音楽も絵も表現できなくなるのをわかっているから、そういう気持ちは表現に変えてぶつけています。先程の藁人形の話にも重なりますが、怒りや恨みつらみなどの負の感情を、わたしは藁人形にではなく楽曲にして吐き出していく。結果、それが本当に納得のいく絵や楽曲になると、恨んでいた人にさえ感謝を覚えます。入り口は恨みでも、最終的には「ありがとう」の気持ちになるのが、わたしにとっての創作。きっかけはどうであれ、その対象を恨み続けることは、わたしはないですね。

──るりさんは、和装…着物にも強いこだわりを見せていません?

渋谷るり わたしの祖母が旅館の女将をやっていたこと。祖母自身が、普段から着物を身につけている人であり、祖母の姿を通して、わたし自身が「着物の似合う女性になりたい」願望をずっと持っていて、昔から着物は大好きです。今回の衣装も、古い一点物の着物をリメイクして作っていただきました。昔の着物って一点物が多かったから、同じ柄の着物を探そうと思ってもないんですね。しかも、その時代ごとに大事に身につけてきた着物を、次の人たちに手渡そうと売りに出しては、それを別の人が買って身につけてと、時代を経ながら連綿と受け継がれてゆく。そういう着物を手にしたときに感じるのが、いろんな人の思いを受け継ぎながら、次はわたしが身につけるんだなということ。わたし自身は、そういう思いも胸に着物を着ています。

──改めて、1stEP『ヒロイニズム宣言』についての思いも聞かせてください。

渋谷るり  「CDを作ろう」というお話が出てから、1年の歳月をかけ、ようやく形になって嬉しいなと思っています。絵もそうだけど、収録した1曲1曲もだし、この1枚も自分にとっては子供のよう。こうやって1枚作りあげて、世の中へお披露目したことで、また新たな作品を作りたい欲求も生まれてきました。手元には、まだまだ音源化していない曲たちがたくさんありますし、今も新曲を作り続けているから、何時かまた形にしていけたらなと思っています。

──るりさんは今、配信ライブを主にやっていますよね。

渋谷るり  「秘密基地」という場をベースに、今は、毎月配信ライブを行っています。その合間に、不定期ですがリアルライブもやっています。配信ライブをやっていて嬉しいのが、リアルライブだと、どうしても東京近郊の方が中心になってしまうところを、日本全国いろんな地域の方々はもちろん、海外の人たちも見てくれること。しかもアーカイブ放送もあるから、期間内なら、住んでいる場所や見る時間帯に関係なくライブに触れてもらえるのは、すごく嬉しいです。ただ、秘密基地でのライブ配信の場合、いろんな角度から撮影をしているから、どの視線から見られているんだろうと思うと、なかなか気は抜けないですね(笑)。ライブは、今後も配信/リアルの両方を上手く使い分けながらやっていこうと思っています。

──絵のほうも、平行して続けていますよね。

渋谷るり  もちろんです。そして描く傍ら、自分の作品を燃やしたりもしています。ただし、描いた絵が憎いから燃やすのではなく、その真逆で、愛があるからこそ燃やしています。

──それは、どういうことですか?

渋谷るり  音楽って物体のないものじゃないですか。絵も、そういう存在になってもいいんじゃないかという思いが以前から自分の中にはあって。もちろん、みずから所有したいという方には絵を販売していますけど、個展を開催しても完売するとは限らない。そうなると、自然と家にもストックしてゆく作品が出てくるわけです。もちろん、ほしいという要望があれば販売をしますけど、その作品がわたしの心の中でずっと生きているのなら、形として存在しなくても良いなと。そうして形がなくても充分に愛せるなと感じる作品を、燃やしています。一枚の絵は基本的には全て燃やし尽くしますが、中には、半分だけ燃やした絵を「それがほしい」と言って購入してくださる方もいます。燃やした作品が、また新たな芸術作品として価値を持つのなら、それもいいんでしょうね。


2026年は、今年以上に直接ライブでお会いする機会は増えそうです。


──るりさんの今後の展開についても教えてください。

渋谷るり  表現活動自体が、わたしの人生そのもののように、わたしが止まるときは死んだときだという思いを胸に、ずっと表現活動を続けています。そのうえでの今後のお話になりますが、来年、間々田優さんが、ほぼ1年かけて全国30ヶ所を全国ツアーという形でまわります。そのツアーのオープニングアクトとしてわたしも帯同し、全ヶ所でご一緒します。しかも、全公演を配信ライブとしてもお届けする予定です。年末も甲府で年越しのベントに出演しますが、2026年は、今年以上に直接ライブでお会いする機会は増えそうです。

──楽しみにしています。最後に、ひと言いただいても良いですか。

渋谷るり  わたしは、昔から受け継がれてきた一点物の着物も、同じ柄の量産品として販売になる着物も、両方とも「素敵だな」と思っています。それをわたしに例えるなら、わたしの1stEP『ヒロイニズム宣言』は、CDという量産品になりますけど。綺麗に整えられた作品だからこそ、その作品を多くの方々に手にしてほしいなと思っています。逆にライブは、一点物の着物と一緒で、これを逃したらもうこの柄の着物とは出会えないかもしれない。時には少し破れていたり、汚れていたりするかもしれないけれど、それもまた味わい深い。つまり、その場にいてこそ感じられる楽しさや価値がある。わたしはその両方を大事にしたいし、楽しんでいきたいから、ぜひ2つの面から渋谷るりの世界を味わってください。よろしくお願いします。

 

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(協力:J ROCK’N’ROLL)

TEXT:長澤智典

ヒロイニズム宣言/渋谷るり
品番:TH-229
価格:¥1650(税込)
<収録曲>
01.グラジオラス
02.ヒロイニズム宣言
03.パラレルワールド・ベイビーズ
04.毒蛇 ー道成寺ー

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